生命保険のための医学知識

生命保険、医療保険の引受や支払に関係する医学知識を都度書いてます。

急性冠症候群

急性冠症候群
 急性冠症候群(acute coronary syndrome)は、急性冠動脈閉塞により引き起こされる一群の病態をさします。その結果は閉塞の程度によって異なり、不安定狭心症(unstable angina、急性冠不全、心筋梗塞狭心症、中間症候群)から非ST上昇心筋梗塞(NSTEMI、心内膜下心筋梗塞)、ST上昇心筋梗塞(STEMI、貫壁性心筋梗塞)および心臓性突然死まで様々です。


不安定狭心症

 

疾患概念・原因
 3週間以内に発症または憎悪した狭心症、あるいは安静時に胸痛発作のみられる狭心症です。心筋梗塞に移行しやすいといわれており、緊急入院により的確な診断・治療が必要となります。いわゆる“ひどくなりつつある狭心症”です。

 

疫学・症状・経過
 最近3週間以内に新しく発症した労作性、安静時狭心症あるいは、徐々に発作の頻度や程度が憎悪した労作性狭心症あるいは、安静時にも胸痛発作がみられるとき不安定狭心症と診断します。

 

検査・治療
 不安定期には運動負荷テストは行いませんが、労作性狭心症と同様に心電図、血液検査、心筋シンチグラフィなどの検査を行います。
 治療は即入院を必要とします。その理由として急性心筋梗塞への進展防止が挙げられます。また、狭心症発作を完全に予防する必要もあります。基本的には薬物療法を行います。抗血小板剤のアスピリンや抗凝固剤のヘパリンの投与をします。それらに加えて亜硝酸薬やCa拮抗剤、β遮断剤、冠血管拡張薬なども使用することもあります。労作により発作回数が頻繁になり、胸痛発作持続時間も長く薬の効きも悪くなるケースもあります。これらの治療で70%~90%の改善が見られますが、改善が見られない場合、冠動脈造影検査(CAG)を行い経皮的冠動脈インターベンション(PCI)や冠動脈バイパス術(CABG)を行うこともあります。
 冠動脈内血栓が主要因の場合、ウロキナーゼ(線維素溶解酵素剤)、ストレプトキナーゼ(血栓の主要たんぱく質フィブリンを分解する血栓溶解剤)、t-PA(組織型プラスミノーゲンアクチベータの血栓溶解剤)などの注入による経皮的血栓溶解療法(PTCR)が試みられることがあります。

 

予後
 予後は最初の治療で変わりますが、基本的に不良なものです。

 

査定のポイント
 生命保険、医療保険ともにお引き受けは困難なものと思われます。


急性心筋梗塞

 

疾患概念・原因
 冠動脈の閉塞または狭窄により、その血流域の心筋が壊死に陥った状態をいいます。閉塞や狭窄の時間が2~3分以上続くと心臓の組織が壊死します。原因として最も多いのが血栓です。

 

疫学・症状・経過
  30分以上継続する激しい胸痛があり、聴診でⅠ音減弱、Ⅲ・Ⅳ音を聴取します。2~3日後に心膜摩擦音が聞かれます。発症する数日あるいは数週間前に間欠的な胸痛(狭心症)や息切れ、疲労感がみられます。痛みは頻繁に起きるようになり、運動量をいくら少なくしても起こるようになります。これら胸痛パターンの変化は心臓発作を起こす事で頂点に達します。胸の中央から背中、顎、左胸に広がる痛みです。糖尿病患者や高齢者では、心筋に虚血があっても胸痛を訴えないこともあります。これらの痛みにはニトログリセリン舌下錠の効果は少ないです。

 

検査・治療
 心電図で尖鋭T波、ST上昇、異常Q波が見られます。血液検査ではWBC、CPK、AST(GOT)、LDH、CPR、血沈、細胞質マーカーのH-FABP、心筋ミオシン軽鎖、ミオグロビン、トロポニンなどの上昇がみられ心筋が壊死していることを示しているとき、急性心筋梗塞と診断します。
 発作時の治療は、安静にして酸素吸入とアスピリンの投与を行います。胸痛に対して塩酸モルヒネ、心筋運動負荷の改善には亜硝酸薬(ニトログリセリン)の静注点滴やβ遮断剤、心室性期外収縮にはリドカインなどを投与します。リドカインなどで心室頻拍や心室細動などの致死的不整脈を予防します。
 合併症には心筋破裂や心不全などがあり、それらに対する対症療法も行います。胸痛が持続する場合、または発症後12時間以内の場合は冠動脈造影を行い、病変を確定後、経皮的冠動脈インターベンションや経皮的冠動脈血栓溶解術を積極的に行います。特に発症後6時間以内であれば心筋壊死範囲が小さく効果が大きいです。

 

予後
 心筋壊死の範囲が大きい場合の予後はあまりよくありません。5年生存率は92%と言われています。左室機能が最も良い指標になります。

 

査定のポイント
 医療保険についてのお引き受けは困難と考えますが、生命保険については術後数年以上経過したのちに高度条件体でのお引き受けが可能と考えます。