生命保険のための医学知識

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鉄欠乏性貧血(テツケツボウセイヒンケツ)

血液中のヘモグロビン濃度が低下した状態を貧血のことをいい、貧血の中でも最も頻度の高い疾患であり、全身倦怠感、いらいら感、めまい、耳鳴り、動悸、息切れ、頻脈などが起きます。重篤な症例の場合、痛みを伴う口角炎、舌炎、また食道粘膜の萎縮のため嚥下障害が起きる場合があります。またこの貧血に特有な症状として異食症、異臭症も起きることがあります。

疾患概念・原因

 鉄欠乏性貧血は、鉄の欠乏により赤血球のヘモグロビン合成が低下して起こる貧血です。一般に若年から中年の女性に多く、貧血の中では最も頻度が高い疾患です。日本では貧血の3分の2を占め一番多いです。原因として男女共通なものでは胃・十二指腸潰瘍や憩室炎などの慢性消化管出血、痔出血などが多く、女性特有では子宮筋腫などの性器出血、出産による失血、月経過多などが多いです。なお、中高年男性や閉経後女性の鉄欠乏性貧血では、悪性腫瘍による場合があります。

疫学・症状・経過

 若年から中年の女性で、頭痛・めまい・動悸・息切れ・易疲労感・眼瞼結膜蒼白などがあり、スプーン状爪、異食症、赤い平らな舌の舌乳頭萎縮をきたします。時に舌炎、口角炎、嚥下障害を伴います。  鉄が欠乏すると、最初に貯蔵鉄であるフェリチンが減少します。続いて血清鉄であるトランスフェリンと結合したものが減少します。最後に組織の鉄が減少しスプーン状爪やプランマ-ビンソン(Plummer-Vinson)症候群(舌炎・口角炎・嚥下障害を三徴とする症候群ですが、最近ではここまでひどい貧血を見ることは稀です)などの症状がみられます。フェリチンとは鉄を結合する蛋白質で、肝臓や脾臓に存在します。体内の鉄の量に応じて作られ、鉄を貯蔵する役割があります。よって、鉄が減るとフェリチンも減ります。トランスフェリンは鉄を結合する蛋白質で、主に血液中に存在し鉄を運搬する役目があります。よって、鉄が減るとトランスフェリンは余ります。

検査・診断

 血液検査でヘモグロビン(Hb)濃度(血色素濃度)を調べて、一般に成人男性で13g/dl以下、成人女性で12g/dl以下のとき貧血と診断されます。

ヘモグロビン濃度の基準値
男性 13.0~16.6g/dl
女性 11.4~14.6g/dl

さらに、血液検査にて小球性低色素性貧血が確認されること、すなわちMCV、MCHC、血清フェリチンの低下がみられます。血清鉄は40μg/dl以下の低下がみられ、鉄と未結合のトランスフェリンを反映するUIBC(不飽和鉄結合能)とTIBC(総鉄結合能)が上昇します。末梢血塗抹標本にて、大小不同の菲薄赤血球がみられます。このとき鉄欠乏性貧血と診断します。なお骨髄では、赤芽球が増加し、担鉄赤芽球(sideroblast)が10%以下に低下します。

注)一般にトランスフェリンの3分の1が鉄と結合し、残りは未結合の状態にあり、TIBC=UIBC+血清鉄の関係があります。

治療・予後

 貧血の治療が必要な第一の理由は高拍出性心不全を防ぐためです。子宮筋腫などの原因があればそれを除去します。慢性失血は見逃しません。そして、経口鉄剤を投与しますが、吐き気や心窩部痛などの胃腸症状の副作用がある場合は静注へ切り替えます。ヘモグロビンの回復と同時に、血清フェリチンが20ng/ml以上の回復を必要とします。鉄剤をタンニン酸含有のお茶、制酸薬、テトラサイクリン系抗菌薬と併用すると鉄の吸収を阻害するので併用は避けたほうが良いでしょう。

査定のポイント

   ヘモグロビン、フェリチン、血清鉄を血液検査にて確認した上で、数値により生命保険、医療保険ともお引き受けの検討は可能でしょう。消化管出血、子宮筋腫、悪性疾患などの基礎疾患の有無が精査され、否定されていることが危険選択上重要です。